十七史百將傳卷二 前漢張良 張良

要約

張良の先祖は韓の人で、秦が韓を滅ぼすと家財を投じ刺客を求めた。力士に百二十斤の鉄槌を操らせ、秦の皇帝の巡遊のとき博浪沙で狙撃したが副車に当て、皇帝が天下を捜索すると名を改め下邳に隠れた。

下邳の圯の上で老父がわざと履を落とし、小僧、取って来いと言った。張良は堪えて取り履かせると、老父は教えるに足ると言って夜明けの会を約し、二度の遅参を怒った後『太公兵法』を与え、これを読めば王者の師となれる、十年で興り、十三年目に済北の谷城山の下の黄石がわしだと言った。

十年の後、陳涉らが兵を起こし、張良も少年を集め下邳の西の沛公に属した。説くと沛公は常にその策を用い、天が授けた人だと言った。

秦の下軍を撃つにあたり、張良は旗幟の疑兵と酈食其の利誘を説き、秦将が叛くと士卒は従うまいとしてその懈に乗じ撃てと説いた。沛公は秦軍を破って咸陽に至り、子嬰は降った。宮殿に留まろうとする沛公に張良が桀を助け虐をなすと言うと、沛公は軍を霸上に還した。

項羽が鴻門で沛公を撃とうとすると、項伯が夜に軍中に入り張良と逃げようとした。張良は、逃げるのは義ではないと項伯に断り、沛公に告げてから項伯を引き留めた。沛公は項伯と婚姻を結び、関を閉ざしたのは盗賊に備えたためと言わせて事は解けた。

漢元年、沛公は漢王となって巴蜀に王たり、韓へ帰る張良は棧道を焼いて還る心の無きを示せと説いた。韓から項羽に、漢王は関中を得たいだけだと書を送り、齊が趙と組んで楚を滅ぼそうとすると報せると、項羽は齊を撃った。

漢王は三秦を平定し張良を成信侯とした。彭城で敗れて誰と功をともにできるかと問われると、張良は黥布、彭越、韓信に捨てておやりなさいと答え、楚を破ったのはこの三人の力であった。張良は病がちで兵を率いず策を画る臣であった。

二年、滎陽で包囲されると、酈食其は六国の後裔を復立すれば楚は朝見すると説き、漢王は印を刻めと命じた。張良は、陛下の事業は終わりですと言い、湯武は桀紂の死命を制すと見きわめて封じたが陛下にできるか、遊士が従うのは寸土を望むためで六国を復せばみな旧主に帰ると言い、漢王は腐れ儒者めと罵り印を鋳つぶさせた。

漢四年、固陵で諸侯が期日に至らぬときも張良の計で至った。漢六年の論功で、高帝は、帷幄で籌をめぐらし千里の外に勝ちを決したのは子房の功だとし三万戸を択ばせようとしたが、辞して留に封ぜられた。

大功臣二十余人を封じた後も残る者は功を争い封が行えず、砂上で語り合う諸将を留侯は謀反と答え、封ぜられたのは蕭何ら旧知、誅されたのは仇怨の者ばかりで誅を恐れるとし、憎む雍齒をまず封じよと勧め、雍齒が什方侯になると群臣は喜んだ。

劉敬が関中に都せと説き、大臣は多く洛陽を勧めたが、留侯は、洛陽は四面に敵を受けるが関中は三面を阻み一面で諸侯を制する天府の国だと言い、高帝はその日関中へ都した。

漢十一年、黥布が反いて主上が東へ向かうと、留侯は楚人は勇猛だから鋒を争うなと言った。十二年、主上が帰ると、留侯は、三寸の舌で帝者の師となり万戸に封ぜられたのは布衣の極みだとし、人間の事を棄て赤松子に従い游びたいと願い、辟穀・導引を学んだ。圯上の会から十三年後、高帝に従い済北を過ぎ、谷城山の下に黄石を見て宝として祠り、没した。

孫子は言う、約なくして和を請う者は謀るところがある、と。張良は秦将を利で誘って襲撃を請うた。また言う、智者の思慮は必ず利と害とを交える、と。張良は前の箸を借りて酈生の説を破った。また言う、善く戦う者には智謀の名声も武功も無い、と。張良にはついに戦闘の功が無かった。また言う、鋭卒は攻めるな、と。楚人と鋒を争うなと言ったのがこれである。

年表

先祖は韓の人で、秦が韓を滅ぼすと家財を投じて刺客を求め、博浪沙で秦の皇帝を狙撃して失敗し、下邳に逃れて身を隠した張良(字は子房)。圯の上で老父から『太公兵法』を授かり、のち沛公に従って帷幄の中に籌をめぐらす謀臣となった。鴻門の危難を解き、棧道を焼き、六国の後裔を立てる議を止め、関中に都を定めさせるなど、戦闘の功を持たぬまま漢の創業を決した。留侯に封ぜられ、晩年は辟穀・導引を学んで世を去った。

年表(6件)
  • 漢元年前206年沛公が漢王となり、張良は棧道を焼かせて韓へ帰る
  • 二年前205年滎陽で包囲された漢王に、六国の後裔を立てる酈食其の計を八不可で退けさせる
  • 漢四年前203年固陵で諸侯が期日に来ず、その計を用いて諸侯をみな至らせる
  • 漢六年前201年功臣の封で三万戸を辞退し、留に封ぜられて留侯となる
  • 漢十一年前196年黥布が反き、病重く従えぬまま楚人と鋒を争うなと諫める
  • 十二年前195年黥布を破って帰った主上に、赤松子に従い遊びたいと隠退を願う

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